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「未来世代へのコミットメント」から始まる
ミツウロコグループのサステナビリティ経営

株式会社ミツウロコホールディングス 代表取締役社長 CEO 田島晃平

「未来世代」を起点としてサステナビリティを問い続ける

今回のサステナビリティレポートでは、『未来世代へのコミットメント』をテーマに掲げました。なぜ私たちはサステナビリティやESGに取り組むのか。その問題意識の起点が、「今この瞬間」ではなく、「未来世代に対して、私たちは今どうあるべきか」という問いに置かれているからです。この視点を持つことで、個々の取り組みや判断が点ではなく線としてつながり、一貫した方針として捉えられると考えています。
この一年を振り返って、私自身が強く感じたのは、地球環境の変化が実感できる問題になってきているということです。私はかつて、赤道近くのマレーシアで生活した経験がありますが、乾季と雨季があるだけで季節感がなく、一年中同じような気候が続きます。その環境で暮らしていると、不思議なことに思い出が季節と結びつかなくなります。日本に戻ってから、四季があることのありがたみを改めて実感しました。
しかし、その日本でも「四季が二季になる」と言われるようになり、気候変動が生活に直接影響を及ぼすようになっています。私自身、動物を飼っていますが、散歩に行ける時間が早朝や深夜に限られるなど、これまでとは明らかに状況が変わってきています。気候変動は、私たちの暮らしに影響を及ぼす現実の問題です。だからこそ、この変化を知っている私たちの世代が、どのように次の世代へつないでいくのか。その責任を、改めて強く意識する一年となりました。

ミツウロコグループの立ち位置は二者択一ではない、第三の選択肢

私が「未来世代」という言葉から思い浮かべるのは、選択肢が増え続ける社会です。この20年ほどを振り返っても、その流れは大きく変わっていません。技術や医療の革新を背景に、多様な生き方や価値観が認められ、いくつもの選択肢の中から自分で選ぶことができる社会は、今後もしばらく続いていくと感じています。「人生100年時代」と言われる中で、当社の若手社員が22世紀を生きる可能性もあります。そうした未来世代は、革新と競争が同時に進む環境の中で生きていくことになります。おそらく、スタンダードとなるものが一つ二つ生まれる一方で、その周囲には数多くの選択肢が並ぶという構図を想像しています。
では、その競争の中でミツウロコグループはどこに位置づけるのか。二者択一の競争関係、いわゆるA社対B社というガリバー企業に自ら入っていく姿は想像していません。むしろ、第三、第四、第五の選択肢として存在することで、企業としてのカラーや主体性を保てるのではないかと考えています。創業時の社名である「三鱗社」が示すように、一対一ではなく、バランスの取れた「三」という立ち位置をイメージしています。
そのため私は、どれだけ長い歴史のある業界に身を置いていても、「常に新しいプレイヤーでいよう」「常にチャレンジャーでいよう」と社員に伝え続けています。規模やシェアで戦うのではなく、ユニークさで選ばれる存在でありたい。その姿勢こそが、第三の選択肢として選ばれ続けるために必要だと考えています。
100年企業として、さらにその先の100年を見据えたときに大切なのは、「染まらないこと」です。当社の社員は素直で真面目であるがゆえに、環境への適応がとても上手です。赤い集団にいれば赤く染まり、青い集団にいれば青く染まる。それは「環境適応業」を掲げる当社にとって好ましいことですが、染まり切ってその色を落とせなくなってしまうと、それ以上の変化ができなくなります。舞台に合わせて衣装を着替えるように、TPOに応じて柔軟に対応できる状態でいることが重要だと考えています。そのためにも、常に学び、研鑽に努め、自分に投資し続ける姿勢を、一人ひとりが持ってほしいと願っています。

創業当時から続く思想
無駄をなくすことで社会に貢献

明治から大正にかけての時代は、世の中に足りないものが多くありました。インフラも不十分で、まずは足りないものを足りるようにすることが、当社に限らず、多くの企業の役割でした。三鱗運送店では魚の流通にも関わっていましたが、魚を腐らせず、必要な人に必要な時に届けることが最優先でした。日本海側から関東まで飛脚のように走って届けるので「三鱗飛行隊」と呼ばれることもあり、迅速に届けることで無駄を防いでいました。その結果、フードロスの抑制につながり、資源を大切に使うことにもなっていたのだと思います。
煉炭の普及も、環境保全の一つです。煉炭は地中にある石炭を加工して固形燃料にしたもので、炭や薪と違い木を切らずに済みます。それが森林保全につながり、日本の山々がはげ山になるのを防ぐ一助になったと考えています。環境負荷の評価は時代によって異なりますが、治山・治水という観点では、比較的貢献度の高い事業だったのではないでしょうか。
煉炭や豆炭は、一度使えば長時間使い切ることができ、途中で無駄にすることがありませんでした。こうした「使い切る」「無駄にしない」という姿勢は、特別な理念として掲げていたわけではなく、当たり前の感覚として当社の中に根づいていたものです。家事の負担を軽減し、生活水準を高め、都市と地方の格差を少しずつ埋めていく。その積み重ねが、結果として社会にポジティブな影響を与えてきたのだと感じています。
創業当時はサステナビリティやESGという言葉はありませんでしたが、振り返ってみると、その根本にあったのは「無駄をなくす」というシンプルな考え方でした。気づいたことを放置せず、改善し続けていく。その姿勢こそが、これからの時代においても大切にしていきたい価値だと考えています。

各事業と社会課題をどう結びつけるか
「環境的人間ドッグ」による定点観測

ミツウロコグループの事業は、エネルギー、電力、フーズ、リビング&ウェルネス、そして海外事業まで多岐にわたっています。共通しているのは、いずれも生活インフラとして社会と密接につながっているという点です。その中で最も大きな社会課題は、やはり地球環境への影響だと考えています。できるだけ環境負荷の低い商品やサービスを提供することは特別に難しいことではなく、非常にシンプルな姿勢の積み重ねだと思います。その意識が社員一人ひとりに自然と根づいていることが重要です。
一方で、再生可能エネルギーであっても環境破壊が議論されるように、何が本当に環境に良いのかは一面的には判断できません。だからこそ、法令で求められていなくても、事業ごとに環境アセスメントを意識し、中長期的に定点観測を行っていく必要があると感じています。私はこれを、財務とは別の「環境的人間ドック」だと捉えています。事業が環境や社会にどのような影響を与えているのかを継続的に把握することが、社会課題と経営を結びつける重要な視点になると考えています。

サステナビリティと経営の統合
リスクとチャンスは併存している

サステナビリティと経営の統合を考えるとき、私の中では、チャンスとリスクは常に併存しているという感覚があります。当社は伝統的に地域密着型で、地方や遠隔地での事業を得意としてきました。私は引き続き、そこにチャンスがあると考えています。ただし、同じ発想のまま取り組めば、人口減少の影響を直接受け、それがそのままリスクになってしまいます。だからこそ、発想を転換し、人口が減少した土地をどう活用するかといった視点が重要になってきます。
都市部においても、電力や都市ガスといった事業は着実に成長していますが、大手と同じモデルで競争すれば、二者択一の構図に巻き込まれてしまいます。ユニークさを保つためには、都市部以外の地域で培ってきた強みとグループ会社としての相乗効果を存分に発揮し、「あの会社か」と選んでいただける存在になれるのではないでしょうか。
カーボンニュートラルについては、環境負荷を一つひとつ低減していった先に、結果として実現されるものだと考えています。その中で、最近特に関心を持っているのが「ブルーカーボン」です。海藻などの生態系を整えることで、CO₂の吸収や循環につながっていきます。まだ大手が本格的に取り組んでいない分野だからこそ、挑戦する価値があると感じています。

新しい事業が社会に与える社会的かつ経済的なインパクト

現在取り組んでいる新しい事業の一つとして、コーヒー栽培があります。数量は限定的ですが、日本国内では比較的高い緯度で栽培されるコーヒーとしては珍しい取り組みです。嗜好品ではありますが、食料自給率が低い日本において、「国内でも生産できる」という事実そのものに社会的な意義があると感じています。また、プラネタリーヘルスの取り組みも、複数年にわたり継続してきました。協力していただける仲間や自治体との連携も広がり、抽象的な構想から、実際に触れられる具体的な段階へ移行してきています。こうした取り組みを社会的な価値にとどめず、経済的な効果へとつなげていくためには、当社グループが持つ約1,500社の代理店、グループ全体の商品・サービスにおける顧客基盤を活用しない手はありません。特に地方では、家庭菜園や小さな庭を持つお客様も多く、プラネタリーヘルスの取り組みとの親和性は高いと感じています。
植林についても、試行錯誤を重ねながら進めています。地元の農業高校の先生や生徒の協力を得て、ようやく順調に木々が育ち始めました。群馬県藤岡市という創業者の出身地に、紫色の花が咲く「ジャカランダ」の木を植えることで、町おこしや観光につながる可能性もあります。フルボ酸による土壌改良では、作物の収穫量向上といった結果も出始めています。一社ではできないことを、地域社会や教育現場と連携しながら進めていくという地道な積み重ねが、社会的価値と経済的価値の両立につながっていくと考えています。

サステナビリティ委員会による情報開示の進化

サステナビリティ委員会については、継続的な取り組みを積み重ねてきた一年でした。制度面や開示要請など、企業に求められる動きを常にアップデートし、外部の専門家の力も借りながら、自分たちの立ち位置を整理してきました。その結果、何をどう開示すべきかが、以前よりも明確になってきたと感じています。SSBJ(Sustainability Standards Board of Japan)基準に則り、トップランナーが開示している情報は私たちも開示していきたいと思います。
また、社内でも「サステナビリティ」という言葉が少しずつ定着してきました。社員一人ひとりがその意味を自分の言葉で語れるようになるまでには時間がかかりますが、継続的な取り組みを通じて、いずれ誰に聞いても的確に答えられる状態を目指していきたいと考えています。

サステナビリティ経営を支える2種類の人材像と人材育成

人材については、大きく二つの役割があると考えています。一つは、事業や新たな取り組みをリードしていく人材。もう一つは、日々お客様と直接向き合い、現場の最前線でサービスを提供している人材です。
現場では、「これは環境に良くないのではないか」「他社の方が環境に配慮している」といった声が、日々社員に投げかけられています。そうした変化を真摯に受け止め、環境適応業として振る舞えるのであれば、人材に不足はないと考えています。必要なのは人数ではなく、方向感や感度を共有し、理解を深めるための教育と研鑽です。
一方で、ブルーカーボンやフルボ酸といった専門性の高い分野については、外部の専門人材の力を借りる必要があります。リーダーとなる専門集団を形成し、その知見を社内に広げていくことで、より高度なサステナビリティ経営、プラネタリーヘルス経営を実現していきたいと考えています。

未来世代への約束「美田は残さず」

私たちは、何か一つ大きな取り組みを打ち上げることで評価される企業でありたいとは考えていません。一つひとつできることを着実に積み重ね、企業努力を継続していくことこそが、私たちのやるべき姿だと考えています。
未来世代へのコミットメントとは何か。その問いに対して、私の中に浮かんだ言葉は「美田は残さず」です。私たちは美田をつくる努力は惜しみませんが、それをそのまま次の世代に残すことはしません。残したいのは、挑戦する姿勢、学び続ける姿勢、常に新しいプレイヤーであり続けようとする精神です。その姿勢や精神を共有し、ともに肩を組みながら歩んでいける関係を、投資家の皆さまと一緒に築いていきたいと考えています。